“Hands-On Horror” (Tanya Krzywinska 2002)

[前回](https://shu-mukae.raindrop.jp/blog/notes/entries/note_1777248587.php)に続き、ScreenPlay所収の論文から。今回はホラーゲーム研究の第一人者Tanya Krzywinskaによる、『バイオハザード3』と『Clive Barker's Undying』(Undyingは同名ゲームがあるため、以下CBU)論。Carr同様、彼女も2000年代を代表するゲーム研究者で、Bernard Perronとともにホラーゲーム研究の基礎を築いたと言える。ちなみに本稿は、*Spectator* 2022年秋号に掲載された論文を、本書の編者でもあるKingらの助言をもとに修正したものである(ただ図版は前のバージョンの方が充実している)。 本稿はバイオ3とCBUの作品分析によって、映画とゲームのもたらす経験のちがいを考察している。対象作品はそれぞれ1999年と2001年発売なので、本稿執筆時(2001-2002年頃)は比較的新しい作品だった。CBUは現在までPC/Mac向けのパッケージ版しか発売されておらず、日本でプレイした人はあまりいなさそう(私も今回初めて知った)。現在はプレミア価格ながらAmazonで買えるほか、ソフト自体は[Internet Archiveからも入手できる](https://archive.org/details/CliveBarkersUndyingUSA)(別途シリアルコードが必要。Windows 10でもプレイできるが要パッチ)。本文で何度も言及されるので冒頭だけでもプレイ推奨。プレイ動画も多数あるが、それこそKrzywinska(長いので以下tanya)のいう映画とゲームの体験の差異なので。バイオ3の方はPS5でもPCでも数百円でプレイ可能。かつてはガラケー版もあったが、それはまた別の機会に。 主な論点は、「アイテムやギミックによるプレイヤーの"善"への誘導/強制」「カットシーンによるコントロールの切断」「映画的なバイオ3の視点とゲーム的なCBUのカメラ制御」「ゲーム特有の死の概念と相対化」「好奇心への罰と推奨」など。 プレイヤーは(一部例外はあるが)基本的に善の側におかれ、とくにFPSでは一人称視点によってその感覚が強化される。一人称視点はゲーム的な'調査'のモード、つまり自由な移動と視点変更をもたらし、視界内のすべてを確認することが求められるゲーム的空間を航行することなる。この点でCBUとバイオ3は対照的。ただ実際は前者の方がカットシーンが長いし多い。おそらくこの自由な調査と切断のコントラストが、Tanyaがカットシーンがプレイヤーの支配を崩し、無力感を与えると主張する一因だろう。 とはいえ、ホラー映画で覗き魔がことごとく処罰されるのに対し、ホラーゲームではむしろそうしないと生き残れないという指摘は納得できる。これはCBUのような一人称アクション/シューターに限らず、バイオでもとにかく全部の部屋に入り、全部の引き出しを開けるのは基本。 もう一つ納得できたのは、死の相対化について。プレイヤーの死については、何本も論文が出ている(たとえば[「ゲームにとって死とは何か ?─「ゲーム的リアリズム」問題再訪」](https://www.academia.edu/23855424/The_Experience_of_Death_in_Games_Revisiting_the_Controversy_on_Gamic_Realism_In_Japanese_2016_)吉田寛 2016)。だが主人公(=操作キャラ)や味方キャラの死がしばしばプレイヤーによって蘇生・反復されるのに対し、敵の死は一回性のものであることが多いという不均衡は、わりと見過ごされがちかもしれない。『ファイヤーエムブレム』がごとき氏んだら退場のSRPGでは、味方が氏ねばリセットするが、敵が氏んでもお疲れ!で終わりである。ましてゾンビなら、むしろ頃すほうが街のお掃除にもなって一石二鳥である。ホラゲはこの命の不均衡性がプレイヤー(と社会)の倫理観を麻痺させるからこそ存在しうる(Carmagedonとか)。このあたりの話は『ゲンロン 8』の[さやわかの論考](https://shop.genron.co.jp/products/160?srsltid=AfmBOooFPBoKvqsp3rn-s6ATIp4cCdvadmpYp9NbzaL7XO2debLN7AnE)にもつながる。 初期のホラゲ論なので、どうしてもその後の発展を経験した後ではプリミティブに見える部分もある。とはいえ上述のポイントを含め、今の視点で再検討すると面白そうなポイントもあり、CBU以外にも主要作品ながら個人的にあまりなじみのなかったタイトルが挙げられていて勉強になったので、星4つ。 (Krzywinska, Tanya. 2002. “Hands-On Horror.” In ScreenPlay: Cinema/Videogames/Interfaces, edited by Geoff King and Tanya Krzywinska, 206–23. London: Wallflower Press.)

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